生成AI発展の5つのステップ
ChatGPTを開発したOpenAI社のサム・アルトマン氏は、生成AIの発展段階を5つのステップに分けています。
レベル1は「チャットボット」です。いわゆる会話型AIで、すでに広く活用されています。レベル2は「推論者」で、人間レベルの問題解決能力を持つAIです。これも現在(2025.03)すでに広く使われ始めています。
レベル3は「AIエージェント」です。この段階になるとAIが自ら行動を起こせるようになります。2025年は「AIエージェント元年」とも言われ、実務に役立つ生成AIが続々と登場する年になると予想されています。レベル4は「イノベーター(革新者)」で創造や発明ができるAIの登場です。レベル5は「組織の業務を遂行できるAI」でヒトを凌駕するAIの誕生です。
アルトマン氏は「これから3000日以内にAIはレベル5に到達する」と予言しています(2024年9月23日に言及)。
AIエージェントについて考えてみよう
今回はレベル3の「AIエージェント」について考えてみましょう。もうすでに「AIエージェント」と銘打った業務アプリが続々と出現しておりますが、本格的な「AIエージェント」は2026年までには完成すると考えられています。
この「AIエージェント」の登場により、製造現場においてもAIの効果を享受できる環境が整ってきます。「AIエージェント」とは、“複数のAIモデルやデバイスを組み合わせることで、単一のモデルでは困難だった高度で複雑なタスクを自律的に実行できる自律型システム”のことで、業務に活用することにより、業務の自動化による大幅なコスト削減や、人的ミスの防止、24時間365日の安定稼働など企業にとって多くのメリットが期待されます。
その種類も、単純なものだけでなく、
- 内部モデルを持ち、現在の環境の変化に応じた行動を選択し、内部モデルを更新しながら過去の情報を活用してより適切な行動を行う「モデルベース反射エージェント」
- 特定の目標を最適な方法で達成するための予測と推理を行う「目標ベースエージェント」
- 単に目標を達成するだけでなく、この行動の効果を最大化する「効用ベースエージェント」
など、さまざまな「AIエージェント」があります。

たとえばAI電話対応システムは、人工知能がコールルーティングを最適化し、企業の電話対等業務を自動化。人件費削減や業務効率化に加え、顧客満足度向上に貢献します。
製造現場におけるAIエージェントの活用
では「AIエージェント」は製造現場にはどのように活用されるのでしょうか? その例を考えてみましょう。
- 「モデルベース反射エージェント」は品種ロットに対応したマシンセンターの自律的稼働への活用など
- 「目標ベースエージェント」は生産計画の自動策定への活用など
- 「効用ベースエージェント」は生産ラインの最適稼働(生産効率の向上、電力原単位最適化、CO2排出量最小化、品質ロスの解消、材料歩留の最大化、人員配置の最適化等)への活用など
が考えられます。製造現場以外での代表例としては、高次の「目標ベースエージェント」が自動運転車システムに活用されています。

自動運転車システムのイメージ
さらに複数の「AIエージェント」を組み合わせて「階層型エージェント」として使うこともできます。「階層型エージェント」を使えば、工場全体、物流倉庫など多数のロボットが連携しながら業務を遂行するシステムなども構成できます。これらのエージェントは学習機能を持ち、パフォーマンスは使っているあいだに時間と共に自律的に向上します。
AIエージェントとの対話は日常言語で行う
「AIエージェント」との対話は生成AIを通じて日常言語を用いて行うことができます。「AIエージェント」は自分自身のプログラミングを行い、ルールベースの単純なアルゴリズムから、強化学習や深層学習(DL)などの高度な機械学習(ML)モデルまで、複数の手法を用いて継続的に学習します。
このように、「AIエージェント」はセンサーやAPI※を通じて現実世界のデータを取得し、自律的にわたしたちのやりたいことを実現してくれます。しかも「AIエージェント」との対話は誰もが日常言語でできるという状況が目の前に現れつつあります。
API(Application Programming Interface)とは
「API」とは「アプリケーション・プログラミング・インターフェース(Application Programing Interface)」の頭文字をとったもので、「インターフェース」という言葉が意味するように「境界線」「接点」を用いてアプリケーションをつなぐ機能を提供します。使用すれば、異なるソフトウェアやプログラムを連携させられるようになります。
わたしたちは「データサイエンティスト」を目指そう
このとき、わたしたちにとって大切なことは
- 「AIエージェント」にわたしたちの「やりたいこと」すなわち「目標」を明確に示すこと
- 「AIエージェント」と対話し、「AIエージェント」の学習を支援すること
- 「AIエージェント」が現実世界を正しく認識できるように、「センサー」や「データ」を提供すること
の3点を適切に行うことです。
良い情報がなければAIは正しく作動できません。わたしたちは「データサイエンティスト」としての能力を磨き、近未来に迫った製造システムの革命に備えましょう。
国内大手鉄鋼企業の製造部門で生産管理・品質管理を経験後、エンジニアリング部門でニューヨークに駐在し米国への鉄鋼技術販売に携わる。その後ドイツ大手貴金属精錬企業に転じ、副社長としてベルギー研究所副所長および東アジア地区支配人を兼務、中国、台湾、韓国、日本の支社長として会社設立・業務拡大に成功。その間、京大、阪大、中国東北大にて後進を育成。現在、地プロ事業統括者、デジ田地域DXプロデューサー、混声合唱団スティールエコー常任指揮、中国東北大名誉教授。