AIの次なる大きな一歩

生まれたての赤ん坊は言葉は話せませんが体を動かし、ものにぶつかると傷つくこと、その傷も時間がたつと治癒されること、食事のあとしばらくするとおなかが空くこと、欲しいものを手に取るために必要な動作など、3次元空間の認識、時間の認識をまず知覚して頭の中に世界のモデルを作り、それに言語を張り付けていくのです。
しかし、LLMはあくまでデジタルの世界、つまりコンピューターの中の「脳」です。いかに賢くて言葉を操ることはできても、物理的な「体」を持っていないため、3次元空間や、時間の経過については真の認識はできていないのです。
そして今、AIの進化は、その「体」を手に入れるという、次なる大きな一歩を踏み出そうとしています。言葉の世界を飛び出し、私たちが実際に手で触れることのできる「物理の世界」へと進出する。それこそが、LLMの次にやってくると言われる「フィジカルAI」です。
「脳」と「体」が結びついたAI

フィジカルAIとは、一体何なのでしょうか? 一言でいえば、「賢い脳(AI)と、器用な体(ロボット)が一体となったもの」です。
これまでのロボットは、決められたプログラム通りに同じ動きを繰り返すのが得意でした。工場のラインで寸分たがわず部品を取り付けるアームなどがその代表です。しかし、予期せぬ事態が起きたり、少しでも状況が変わったりすると、途端に動きが止まってしまいます。彼らには、状況を理解し、自ら考えて行動する「脳」がありませんでした。
AIが「見て、聞いて、考えて、そして行動する」
一方で、LLMは人間のように考え、言葉を理解する「脳」を持っています。フィジカルAIは、このLLMのような賢い脳を、ロボットという体に組み込む試みです。これにより、AIは初めて「見て、聞いて、考えて、そして行動する」という、人間と同じような能力を手に入れるのです。
例えば、「テーブルの上のリンゴを取って」と声で指示すると、AIはまずカメラ(目)でテーブルの上を認識し、「リンゴ」がどれかを理解します。次に、どうすれば最も効率よく、そしてリンゴを潰さずに掴めるかを考え、ロボットアーム(手)を巧みに動かして掴み取る。
こうした一連の動作を、プログラムではなくAI自身の判断で行えるようになります。まるでSF映画に登場する、人間とコミュニケーションを取りながら家事を手伝ってくれるロボットのようです。
私たちの生活はどう変わるのか
フィジカルAIが普及した未来は、私たちの生活を根底から変える可能性を秘めています。
家庭の例

料理、掃除、洗濯といった日常の家事はもちろん、高齢者の身の回りの世話や話し相手といった介護の役割も担ってくれるでしょう。少子高齢化が進む社会において、フィジカルAIは家族の一員のような頼もしいパートナーになるかもしれません。
工場や建設現場の例
人手不足が深刻な業界の救世主となります。危険な作業や、人には難しい精密な作業を人間に代わってこなし、人間はより創造的な仕事に集中できるようになります。
医療の現場や災害救助の例
人間が立ち入れない危険な災害現場での人命救助や、ミクロン単位の精度が求められる手術のアシスタントなど、フィジカルAIにしかできない仕事が数多く生まれるはずです。
新しい未来への期待と課題
言葉の世界で驚異的な進化を遂げたAIが、次に物理の世界を目指すのは、ごく自然な流れと言えるでしょう。フィジカルAIは、単なる便利な「道具」ではなく、社会のあり方や、私たちとテクノロジーとの関係そのものを変えていく存在です。
LLMが私たちの「知性」を拡張するパートナーだとすれば、フィジカルAIは私たちの「身体」を拡張し、生活そのものを豊かにしてくれるパートナーになるのかもしれません。言葉の世界から現実の世界へ。AIが起こす次の革命は、もうすぐそこまで来ています。
国内大手鉄鋼企業の製造部門で生産管理・品質管理を経験後、エンジニアリング部門でニューヨークに駐在し米国への鉄鋼技術販売に携わる。その後ドイツ大手貴金属精錬企業に転じ、副社長としてベルギー研究所副所長および東アジア地区支配人を兼務、中国、台湾、韓国、日本の支社長として会社設立・業務拡大に成功。その間、京大、阪大、中国東北大にて後進を育成。現在、地プロ事業統括者、デジ田地域DXプロデューサー、混声合唱団スティールエコー常任指揮、中国東北大名誉教授。