CASE STUDY 事例紹介

熊野で拡大する分散型ホテル——WhyKumanoが挑む地域活性化の新モデル

合同会社WhyKumano

よみがえりの地・熊野で始まった、小さな挑戦

よみがえりの地、熊野。
深い緑に包まれた紀伊山地と、雄大な海を臨む南紀勝浦。その静けさの中で、いま新しい挑戦が進んでいます。

JR南紀勝浦駅から徒歩10秒。

アクセス良好な場所にあるゲストハウス「WhyKumano,Hostel & Cafe Bar」(以下、「WhyKumano」という。)。一見するとどこにでもある小さな宿ですが、その中で「街全体をホテルにする」という大胆な構想が実践されています。

2019年にオープンしたWhyKumano。代表の後呂孝哉(うしろ たかや)さんが掲げたのは、“アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)”という考え方です。宿の中で完結するのではなく、食事や体験を地域に開くことで、滞在そのものを「まち」に広げていく取組です。

公益財団法人わかやま産業振興財団の地域課題を解決する事業の創業期を支援する補助金「地域課題解決型起業支援補助金」を活用し、事業は順調に立ち上がりました。ところが、コロナ禍によって状況は一変します。宿泊予約はゼロに。

それでも後呂さんは、「オンライン宿泊」という新たな取組でこの危機を乗り越えます。
画面越しに熊野を体験する試みには、全国各地、さらにはブラジルからの参加者も現れました。結果として、熊野の認知は大きく広がりました。

2026年現在、拠点は11施設にまで拡大(自社運営10施設、運営委託1施設)。DXにも取り組みながら、その構想は着実に形になりつつあります。

Why Kumano――後呂さんは、なぜ熊野でこの挑戦を始めたのでしょうか?

アップデートイメージ

「知る」のアップデート

地域資源を“点”ではなく“面”で活かすことで、観光とまちづくりを両立させる

おススメイメージ

こんな人にオススメ!

地域資源を活かした起業に関心のある方 、観光・宿泊業で差別化を図りたい方 、DXや業務改善のヒントを得たい方

なぜ熊野だったのか——原体験と起業の原点

熊野古道伊勢路の松本峠道から望む美しい七里御浜海岸のパノラマ

熊野古道伊勢路の松本峠道から望む美しい七里御浜海岸のパノラマ

後呂さんは新宮市の出身です。高校卒業までこの地域で育ちましたが、当時は「早く都会に出たい」という思いが強かったといいます。

一方で、生まれ育った地域の商店街の衰退など、地域の変化も感じていました。少子高齢化の影響で、身近だった店が次々と姿を消していきます。このまま地域はどうなるのか——そんな不安も抱いていました。

転機は、東京に出たあとに訪れます。外から地元を見ることで、その価値に気づいたのです。

もともと30歳までに起業することを考えていた後呂氏は、大学卒業後、勤務していたメーカーを退職し、日本一周の旅に出ます。約半年をかけて各地を巡る中で、地方で挑戦する人々と出会いました。

「日本はこんなに面白い場所だったのか」

そう実感した経験が、進路を大きく変えました。世界一周の予定を取りやめ、日本で挑戦することを決めます。

また、旅の中で改めて感じたのが、“熊野の素晴らしさ’’と“認知の低さ’’でした。これだけ魅力があるにもかかわらず、十分に知られていない。さらに、地元の衰退は進んでいました。

「ここで何かをしたい」

その思いが、起業という選択につながりました。

ゲストハウスという選択

帰郷後、どのような事業にするかを考えたとき、人口減少の中で地元向けビジネスの難しさを感じたといいます。

一方で、熊野古道には外国人観光客が増え始めていました。以前は見かけなかった変化です。
ここに可能性を見出しました。

日本一周の経験から、「旅の印象は人との出会いで決まる」と感じていた後呂氏は、ゲストハウス※という形を選びます。交流が生まれる場が、その街の印象を大きく左右すると考えたためです。

当時、この地域にはゲストハウスがほとんどありませんでした。

「それなら自分でつくるしかない」

こうしてWhyKumanoがスタートしました。

ゲストハウスとは?

ゲストハウス(ホステルを含む)は、共用リビングを有した“シェアする旅の宿”です。プライベート性の高いホテルや旅館とは異なり、初対面の宿泊者同士・宿のスタッフ・地域の人々など、他者との繋がりを重視した共用空間を設けた、パブリック性の高い宿を指すケースが多くなっています。

引用元:ゲストハウスとは -特徴と傾向- | ゲストハウスガイド【FootPrints】-Japan Guesthouse Guide-

「街全体をホテルに」——構想のはじまり

WhyKumano施設

WhyKumano hostel & Cafe Barのラウンジ

アルベルゴ・ディフーゾの構想は、当初から描いていたといいます。

物件探しには約1年を要し、最終的に出会ったのが現在のJR紀伊勝浦駅前の場所でした。街がコンパクトで歩いて回れること、温泉やマグロ、世界遺産といった観光資源が揃っていることに魅力を感じ、この場所なら構想を実現できると考えました。

まずは1棟からスタートし、空き家を活用しながら拠点を増やしていく。最終的には、街全体を一つの宿泊体験として提供することを目指しています。
その第一歩が、WhyKumanoでした。

コロナで予約ゼロ——危機を変えた発想

オンライン宿泊利用者と乾杯する後呂さんの様子(WhyKumano提供)

オンライン宿泊利用者と乾杯する後呂さん

2019年7月にオープンした事業は、当初順調に推移していました。

しかし、これからというタイミングでコロナが発生し、予約はすべてキャンセルとなります。
その中で生まれたのが「オンライン宿泊※」です。

Whykumanoのオンライン宿泊

ビデオ会議ツール(zoom)を使用したバーチャル宿泊体験。さも、WhyKumano Hostelのラウンジにいるかの如く、オーナーの後呂 孝哉さんやスタッフさん、一緒に宿泊した旅人同士での交流を楽しめます。料金は、いつかWhyKumano Hostelに実際に行けたとき、乾杯に使えるワンドリンク付きで、1人1000円(税込)。

引用元:Whykumanoオンライン宿泊の体験記|ちさと Ⅰ 旅するフリーランス女将

オンラインで熊野の魅力を伝えるこの取組には、約700人が参加しました。その多くが熊野を訪れたことのない人たちでした。

「熊野に行きたくなった」

多くの人からそんな声があがったといいます。

「知らない場所を知ってもらう」、この点において、大きな成果を上げました。また、多くのメディアにも取り上げられ、熊野の認知拡大につながりました。

拡大とインバウンド回復

拠点拡大の準備は、コロナ禍の最中から進められていました。

空いた宿泊施設を活用し、コロナ明けの需要回復を見据えて動いていたといいます。その結果、複数の拠点をこの期間中に開設しました。

その後、インバウンドは急速に回復します。現在は予約サイト、特にBooking.com経由での集客が中心となっています。

成長の壁とDX

宿泊者はセルフチェックインシステムで受付を行う。

宿泊者はセルフチェックインシステムで受付を行う。

拠点が増えるにつれて、運営上の課題も顕在化しました。

予約管理は手動で行っており、Googleカレンダーを活用していましたが、キャンセル対応の漏れなどが発生し、限界が見えてきました。

そこでDXに取り組みます。

スタートアップ企業と連携し、まずは既存サービスを活用した検証から開始しました。その結果を踏まえ、現在は自社に最適化した仕組みの構築を進めています。

一方で重視しているのは、「誰でも使えるシンプルさ」です。現場ではITに詳しくないスタッフも多く、複雑な仕組みはかえって負担になります。

業務はできるだけ簡素化し、複雑な部分はDXで補う。そのバランスを大切にしています。

WhyKumanoのDXの詳細はこちら(和歌山 観光DXスタートガイド確定版)

宿だけじゃない。「街の体験」を提供する

ホテル宿泊者に好評の「勝浦漁港まぐろ競り」

宿泊者に好評の「勝浦漁港まぐろ競り」の様子

WhyKumanoでは、施設での食事の提供を行っていません。これは、宿泊者に地域の飲食店や商店をはじめとする街を体験することにより、街全体の価値を提供し、ひいては街全体を活性化させたいからです。

従来の宿泊施設では、「一泊二食」が主流で、宿の中で完結するのが一般的でした。しかしそれでは、宿泊者の街の回遊がなくなり、地域の良さを体験していただくこともなく、更に、街も活性化できません。

「“ホテルがよかった”だけでなく、“良い街だった”と言って欲しい。だから、宿泊者の方には、街での食事や温泉、偶発的な人との出会いをたくさん楽しんでいただきたいと思っています(後呂さん)」

失敗から学んだこと

これまでの歩みの中には、失敗もありました。

後呂さんは“近隣への挨拶の遅れ”が大きな反省点だったと振り返ります。

「大きな失敗として印象に残っているのが“近隣への挨拶”です。オープン日が決まってから行こうと考えていたのですが、その頃にはすでに地域で情報が広がっていました。

これは完全にタイミングミスでした。地域では情報の回りが早いので、決まった段階ですぐ動くべきだったんです。ご指摘を受けたことで気づくことができました。その後は、信頼回復に徹しました。一軒一軒回って説明し、どんな施設なのか、どんな運営をするのかを丁寧に伝えました。さらに、内容をまとめた資料も作成して配布しました。(後呂さん)」

特にゲストハウスは、「騒音・ゴミ問題」といったネガティブなイメージを持たれがちです。実際には違っても、説明がなければ不安は解消されません。逆に言えば、不安はきちんと説明すれば解消できるものでもあります。この経験は、その後の運営に活かされています。

人と地域をつなぐ場へ

宿泊者の半数以上を外国人が占めており、国際色豊かな滞在環境となっている。

ゲストハウスは単なる宿泊施設ではありません。人と人、仕事、移住などをつなぐ「ハブ」としての役割も持っています。

「ゲストハウスには、新たな交流を求めている人、働きながら滞在したい人、地域に不足している知見・スキルを持つ人が多く訪れます。だから、将来的にはこの場がギルドみたいになれたら面白いだろうなと思います」

実際に、滞在をきっかけに地域との関係が生まれるケースも少なくありません。
一方で、すべての宿泊者が交流を求めているわけではなくいという課題もあります。このミスマッチをどう減らしていくかが、今後のテーマです。

熊野の魅力とは何か

周辺情報_那智の滝_三重の塔

熊野に位置する那智の滝 三重の塔

「熊野の魅力は、“日常の豊かさ”にあります。自然、食、人——いずれも特別なものではありませんが、当たり前のように存在しています。そのため、地元の人ほど気づきにくい価値でもあります。訪れた人がその豊かさに気づき、自分の地域を見つめ直す。そのような体験を提供したいと考えています(後呂さん)」

熊野から、日本へ

和歌山県 大門坂 新緑

熊野古道 大門坂 新緑

よみがえりの地、熊野。その意味を現代的に捉えると、「価値観の変化」です。

熊野を訪れることで視点が変わり、自分の地域の価値に気づく。その変化が広がれば、日本全体の活性化にもつながっていく。

「This is ○○」と自信を持って言える地域を増やしたい。

そのきっかけの一つが熊野であればよいと後呂氏は考えています。

WhyKumanoが目指す未来

現在、拠点は熊野エリアを中心に11施設まで広がっています。

今後は、地域全体を一つの宿泊体験として提供する形をさらに進めていく予定です。
また、教育分野への展開も視野に入れています。外国人旅行者との交流を通じて、地域の子どもたちが学べる機会づくりにも取り組み始めています。

最終的に目指しているのは、「地域の総合商社」のような存在です。人・仕事・情報が自然につながる拠点として、地域に新たな価値を生み出していきます。

小さなゲストハウスから始まった挑戦は、いま「まち」そのものへと広がり続けています。

後呂 孝哉さん プロフィール

1989年和歌山県新宮市生まれ。
青山学院大学経済学部卒。学生時代に世界26カ国を巡り、日本と熊野の魅力を再認識。電機メーカー勤務など県外で約10年過ごした後、羽織袴で日本一周しUターン。2019年、JR紀伊勝浦駅前に「WhyKumano Hostel & Cafe Bar」を開業。旅人が「Why Kumano?」の答えを見つける場を掲げ、現在はDXを活用した持続可能な小規模経営モデルの構築と地域観光の高度化に取り組む。

会社名 合同会社WhyKumano
所在地 〒649-5335
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町築地5丁目1-3 2F
創業 2021年
TEL 050-3645-2706
URL https://whykumano.com/
事業内容 宿泊業
従業員数 19名(アルバイト含む)

合同会社WhyKumanoが創業時に活用した「地域課題解決型起業支援補助金」の詳細はこちら

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