CASE STUDY 事例紹介

コロナ禍を乗り越えて―「鮎茶屋」の新商品誕生物語

株式会社有田川

新型コロナウイルスの流行は、多くの宿泊・飲食業に深刻な打撃を与えました。営業自粛や宴会需要の消失によって、売上の大幅な減少を余儀なくされた企業は少なくありません。

その逆境の中、和歌山県有田市で「鮎茶屋」として地域に親しまれてきた株式会社有田川は、新たな挑戦として常温レトルト食品の開発に踏み出しました。

アップデートイメージ

「知る」のアップデート

補助金やプロの専門家を上手く活用し、商談会で販路を広げる

おススメイメージ

こんな人にオススメ!

異業種へのチャレンジをしたい人、商品開発をしたい人、販路開拓をしたい人

コロナ禍で売上60%減、事業継続の危機に直面

左から別館 ホテルサンシャイン、お食事処「寿の鈴なり館」有田川温泉鮎茶屋

左から別館 ホテルサンシャイン、お食事処「寿の鈴なり館」、有田川温泉 鮎茶屋。300名を収容できる大宴会場や紀州備長炭を壁に敷き詰めたサウナ・世界初の温泉サウナなどがある。

1950年創業の同社は、飲食店や温泉施設、ビジネスホテルなど多角的に事業を展開してきました。しかし2020年、コロナ禍により宴会需要が激減。年間売上は2017年度比で約60%減少する大打撃を受け、その後も、原材料費や光熱費の高騰、人件費上昇など、厳しい経営環境が続きました。

その状況の中で、3代目代表の花田実氏が注目したのが常温レトルト食品です。これまで取り組んできた冷凍食品販売の経験を活かし、より販路の広い常温商品であれば観光地の売店や道の駅などでも販売でき、幅広い層に届けられると考えたのです。

「またこの味を食べたいと言ってくれるお客様に、地元の食材を活かしたうちの料理を届けたいと思いました(花田氏)」

財団の「専門家派遣事業」と県の補助金を活用して新商品開発に成功

日頃から地元の紀州有田商工会議所に相談していた同社は、担当者の勧めで公益財団法人わかやま産業振興財団専門家派遣事業※を活用することにしました。このことで食品開発のプロとつながり、商品企画や販売計画、写真撮影、パッケージデザインに至るまで一貫して助言を受けました。

※県内企業に対して、専門的な知識を有する「専門家」を派遣し、課題解決へ向けたアドバイスを行う事業

インタビューに応える花田氏

インタビューに応える花田氏

「企画の段階で良い専門家と出会えたことは幸運でした。おかげで、コンセプトやターゲット、売り先まで確信をもって計画を立てることができました(花田氏)」

料理長と共にメニューを考案した後、和歌山県工業技術センターで設備を借りてレトルトの試作を繰り返し、小ロットのOEMでテスト販売を実施。アンケートを通じて消費者の声を反映させながら改良を重ねました。

さらに「和歌山県事業再構築チャレンジ補助金(令和5年度で終了)」も活用し、レトルト殺菌機や真空シーラー、充填機などの設備の導入費用の補助を受けることができました。

「財団さんには専門家の紹介から補助金の情報提供、事業計画書作成支援まで、本当に幅広くサポートしていただきました」と花田氏は振り返ります。こうして商品化の体制が整い、有田川温泉 鮎茶屋の炊き込みご飯の素3種(鮎・みかん鶏・しらす)が誕生しました。

後に「紀州うめぶた」と「鯛」の2種を開発

有田川温泉 鮎茶屋の炊き込みご飯の素。後に「紀州うめぶた」と「鯛」の2種を開発

「わかやま産品商談会」で販路を一気に拡大

次のステップは商品を市場に届ける販路開拓です。そのために同社が活用したのは、「わかやま産品商談会in和歌山※2024」でした。

※魅力ある自社商品を持つ県内企業の販路開拓を支援するため、県内企業と県内外購買企業の皆様に商談の場を提供する商談会。(わかやま産業振興財団主催)

鮎茶屋の世界観を表現した存在感のあるブース

鮎茶屋の世界観を表現した存在感のあるブース

「卸売の経験はゼロで不安もありましたが、思い切って参加して本当に良かったです」と花田氏。関東の高級スーパー、関西の百貨店、旅客鉄道会社のECサイト、さらに北海道の販売先まで販路が広がり、リピート注文も獲得する成果につながりました。

一方で、商談会を通じて学んだのは「試食」と「商品の魅力を短時間で伝える工夫」の重要性です。試食ではぶどう山椒の風味が特徴的な「鮎の炊き込みご飯」が好評でした。しかし、インパクトの弱い商品は反応が薄く、今後はバイヤーに手渡せるPR資料や訴求方法を強化する必要があると実感したといいます。

宴を原点に、地元の味を全国へ

「鮎取名人」「鵜飼」「日本料理人」の顔を持つ初代花田九太会長(株式会社有田川提供)

鮎茶屋は、鮎釣り名人、鵜飼、日本料理人の顔を持つ初代花田九太会長が仕出し料理を始めたことから始まる。(写真提供:株式会社有田川)

有田川で代々営業してきた鵜飼船(写真提供:株式会社有田川)

有田川で代々営業してきた鵜飼船(写真提供:株式会社有田川)

花田氏がこれからも大切にしていきたいと語るのは、同社の原点である「宴(うたげ)」の文化です。

「人が集まり、食事を共に楽しむ。その時間を彩る『宴会業』が私たちの本業です。しかし、コロナで宴会需要は激減し、今後も減り続けるでしょう。コロナ危機が終わっても、いまだ厳しい環境にあることは変わりません。私たちは業態の変革を余儀なくされています。しかし、私たちの『お客様に喜んでいただきたい』という変わらない想いを、時代が変わっても、形を変えても、ずっとご提供していきたいと考えています」

株式会社有田川は、地元・有田川の食材を活かした商品を全国へ届けることで、消費者に地域の魅力を伝え、そして、それが地域を知る入口となり、和歌山のファンを増やすことにつながるとも考えています。

同社の挑戦は、自社の伝統、そして地域文化を守りながらも変化に対応し続ける姿勢の象徴といえるでしょう。

花田 実 氏 プロフィール

1968年 有田市生まれ
1990年 立正大学仏教学部卒業
1994年 株式会社有田川 入社
1997年 株式会社有田川 代表取締役に就任

会社名 株式会社有田川
所在地 〒649-0304
和歌山県有田市星尾37
創業 1950年
TEL 0737-88-5151
URL https://www.big-advance.site/s/145/1320
業種

主業:一般食堂
従業:旅館

同社が活用した「わかやま産品商談会in和歌山」の詳細はこちら

わかやま産品商談会in和歌山2024のイベントレポートはこちら

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