ノンコアビジネスはAI任せでOK
AIの民主化は業務に関するさまざまなテクノロジーをすさまじい勢いで進化させています。この進化は、皆さんの業務を、付加価値を産み出す「コアビジネス」と、それ以外の「ノンコアビジネス」とに改めて見直すための良い機会となります。
なぜならAIの登場によりタスク分割の基準が大きく変化しているからです。AIに任せることのできる「ノンコアビジネス」は日常業務から外に蹴りだし、業務を利益を産み出す「コアビジネス」に絞り込むことにより、付加価値労働生産性(=付加価値/労働時間)が大きく向上し、少子高齢化に伴う労働力不足を克服できるようになります。
AI活用で、蕎麦屋は「おいしい蕎麦の提供」に専念できる
例えば、蕎麦屋の例があります。蕎麦屋はできた蕎麦を顧客に配達する、いわゆる出前をしていました。しかし蕎麦屋にとっての「コアビジネス」はおいしい蕎麦の提供であり、これが蕎麦屋にとっての譲れない「競争領域」です。出前での競争はしていません。
出前という作業は専門性が無く、新人でもできる「ノンコアビジネス」です。そこで蕎麦屋は、近年充実してきた通信インフラを活用して、出前を業務外のレイヤーとして外部に委託するようになりました。つまり新たなテクノロジーにより出前は業界に横串をさすプラットフォーム化され、Uber Eatsのような新ビジネスに転化していったのです。
AI活用で、建築の現場監督は「現場監督業務」に専念できる
蕎麦屋の例はBtoCの例でしたが、BtoBでも同様のことが起こりつつあります。
「建設アシスト」という新サービスがあります。実は建築の現場監督の業務の40~50%が書類作成です。書類作成という付加価値を生まない「ノンコアビジネス」のために本来の現場監督という「コアビジネス」に割く時間の半分の時間が消費されていたということです。
このように現場監督が大きな時間を割いていた書類作成業務をAIに請け負わせる、業界横断型プラットフォーム「建設アシスト」が誕生し、「現場監督を書類監督にしないために」をキャッチフレーズに現場監督が本来の業務に専念することができるようになりました。この業界横断的な新ビジネスは書類作成ビジネスとして現場監督の生産性向上に大きく寄与、業績を拡大しています。
AI活用で、高齢化した一流シェフは「レシピを考えること」に専念できる
もうひとつの例として、レストランの一流シェフのタスク分割があります。レストランの一流シェフのタスクは従来曖昧でしたが、AIの登場でそれを「レシピを考える」タスクと「レシピ通りに調理する」タスクの2つに分割しました。
そして「レシピ通りに調理する」タスクはSONYのAIソフト「録食ラボ ROKU-SHOKU」が行い、一流シェフは「レシピを考える」タスクに専念できるようにしたのです。
ROKU-SHOKUによる調理のデジタル化は、調理を誰でもがAIの指示通り行い専門スキルが不要のタスクとしました。高齢化した一流シェフが「レシピを考える」という高付加価値作業に専念することと、AIによる若手の調理訓練が効率化されたことで、シェフの高齢化という老舗レストランの経営リスクが解消したのです。
AI活用で、新聞記者は「取材」に専念できる
別の例としては、新聞記者のタスクも、ファクトを掴む「取材」と、読み手に読ませる「執筆」とに分割すると、「執筆」は生成AIの最も得意とする分野となります。
生成AIは、例えば巨人阪神戦の記事を巨人ファンに読ませる記事にするか阪神ファンに読ませる記事にするかといった書き分けは最も得意とするところです。「執筆」を生成AIに任せることにより、新聞記者は「ファクトを掴む」真実の追求という本来のタスクに専念することができます。
資源を「コアビジネス」に集中させよう
このようにAIをはじめとする最近のテクノロジーの急激な進化はこれまで未分化であった「コアビジネス」と「ノンコアビジネス」を再整理し、新しい視点で「ノンコアビジネス」を洗い出すことにより、ヒト、モノ、カネ、情報といった資源を「コアビジネス」に集中し、生産性の向上、さらには横串を刺す新規ビジネスの創造、など数々の新たな発想の起点を得ることができます。
皆さんもご自分のタスクをもう一度見直してみませんか?
国内大手鉄鋼企業の製造部門で生産管理・品質管理を経験後、エンジニアリング部門でニューヨークに駐在し米国への鉄鋼技術販売に携わる。その後ドイツ大手貴金属精錬企業に転じ、副社長としてベルギー研究所副所長および東アジア地区支配人を兼務、中国、台湾、韓国、日本の支社長として会社設立・業務拡大に成功。その間、京大、阪大、中国東北大にて後進を育成。現在、地プロ事業統括者、デジ田地域DXプロデューサー、混声合唱団スティールエコー常任指揮、中国東北大名誉教授。