「協働ロボット」の導入が進まなかった理由
労働生産性向上の有効な手段のひとつが、人と一緒に働く「協働ロボット」の導入です。しかしこれまで製造現場における「協働ロボット」の導入はなかなか進みませんでした。それは多品種少量生産のため、製造する品種が変わるたびに協働ロボットに作業方法を教え直す「ティーチング」という作業が必要だったためなのです。ティーチングとはタブレットを経由して作業の手順を協働ロボットにひとつひとつ動作のシーケンスを教えることです。「ティーチング」をするためには一定の知識と訓練が必要で、誰でもができるわけでもありません。もし協働ロボットが数台あれば、それに応じて手間も時間も増します。この品種が変わる際の作業の段取り替えの時間と手間が余分に必要になることが、生産効率をあげるはずがかえって効率が下げる原因となり、協働ロボットの導入が進まなかった理由のひとつです。
協働ロボットを「自律化」する技術が登場。一気に普及する転換点となるか
協働ロボット導入のもう一つの目的に多能工化があります。作業者が突然休んだときなど、協働ロボットにその作業を「ティーチング」すれば代わりに「自動的」に作業をしてくれます。もちろん「ティーチング」には時間と手間がかかります。
この「ティーチング」の問題を解決して協働ロボットが一気に普及する転換点となると思われる技術が最近登場しました。それが協働ロボットの「自律化」です。これには2つの大きな技術革新が必要でした。
まず、協働ロボットに目、耳、口とAI頭脳を持たせます。すると生成AIを経由して人とロボットとのコミュニケーションが自然言語で可能となり、人が口頭でロボットに指示をすることができるようになったのです。もうタブレットやティーチングの専門家は不要で、これからは誰でもロボットに指示をすることができます。
もうひとつは協働ロボットの仕組みの変化です。これまではロボットにシーケンス(作業手順)を教え、ロボットはこれに従って「自動的」に作業をしていました。しかし新しい仕組みでは、ロボットのAIにそのロボットができる基本動作を覚えさせ、AIがそれらの基本動作を組み合わせて考え、指示された作業を行うようになったことです。シーケンスを教える時間と手間が不要になったのです。これを「自律化」といいます。
ロボットもわからなければネットで検索。コミュニケーションは日本語音声で。
「自律化」された協働ロボットはインターネットとも接続されているため、もし人による指示が理解できない場合にはネット上で自分でその意味を検索し、理解した上で作業をします。必要あれば関連する作業マニュアルや品質マニュアルを参照しながらの作業も可能です。
さらにロボット同士のコミュニケーションも日本語音声で行われます。このことで製造現場においてロボットも作業者も分け隔てなく振る舞うことができるようになります。作業員が隣の協働ロボットに「ちょっとこの作業代わってくれる?」というようなことも可能になるのです。
人間と同じように考え、自律的に作業するロボットと協働する未来
先日のロボットメーカーによるセミナーで興味ある話がありました。そこでは、コーヒーやハイボール、カクテルを作るバーテンロボット、および人から注文を聞いて飲み物を手許に運搬するサービスロボットが披露されました。たとえば、人がサービスロボットに「ホットコーヒー、ミルク入り、砂糖なし」と注文すると、サ-ビスロボットはバーテンロボットのところまで行って「日本語で」それをバーテンロボットに伝えます。バーテンロボットはコーヒー豆を挽いて数分間少量のお湯で蒸らし、湯とミルクを適量加えてサービスロボットに渡し、サービスロボットはそれを注文者に届けに来ます。あるとき、「コーヒーをアメリカンで。ミルクと砂糖はなし」と注文し、サービスロボットがそれをバーテンロボットに伝えたところ、バーテンロボットはアメリカンという言葉を理解できなかったそうです。ところがバーテンロボットは直ちにネットでアメリカンコーヒーを検索し、その概念を理解し、通常よりお湯を多めに淹れたコーヒーを作ったそうです。
このように目、耳、口、AI頭脳を持った協働ロボットは、人間と同じように考え、「自律的に」作業をし、近い将来、真の人との協働を実現し、生産性の向上に大いに寄与すると期待されます。
国内大手鉄鋼企業の製造部門で生産管理・品質管理を経験後、エンジニアリング部門でニューヨークに駐在し米国への鉄鋼技術販売に携わる。その後ドイツ大手貴金属精錬企業に転じ、副社長としてベルギー研究所副所長および東アジア地区支配人を兼務、中国、台湾、韓国、日本の支社長として会社設立・業務拡大に成功。その間、京大、阪大、中国東北大にて後進を育成。現在、地プロ事業統括者、デジ田地域DXプロデューサー、混声合唱団スティールエコー常任指揮、中国東北大名誉教授。