突破口を見出すために顧客を「絞る」
なぜでしょうか?
起業家には必ずしも、潤沢な「資金」「時間」「顧客」「経営ノウハウ」等の「資源」があるわけではありません。ですので、限られた手持ちの「資源」を最大限に有効活用し、突破口を見出すのが、「絞る」ということです。
「絞る」というのは、自社の商品・サービスに価値を感じてくれそうな人(想定顧客)に「これは私のためにある商品だ」「こんなサービスがほしかった」と思ってもらえるように、「内容」はもちろん、「見せ方(世界観)」、「PR」の仕方等を合わせていくことです。
他の誰でもない「あなた(想定顧客)」に向けて
「誰にでも愛されるケーキ」と不特定多数にアピールするよりも、「健康を第一に考える女性のためのケーキ」と特定のお客様に向けてつくる方が、「あ、これ私にぴったりだ!」と多くの競合の中から選んでもらえる可能性が高まります。
ニーズにも応えやすく、商品・サービスの改善への対応も早くなります。また、多種多様なケーキをつくるよりも特定のケーキをつくる方が効率もよく、原材料を無駄にするリスクも下がります。加えて、想定顧客が好きなサイト、読みそうな媒体、行きそうな場所への告知を強化すればいいので、知ってもらえる確率も高めやすく、宣伝のための費用も抑えられるという、いいことだらけなのです。
ペルソナ(お客様モデル)を具体的に想像してみよう
では、想定顧客とはどんな人なのか? 何を求めているのか? …ここを外してしまうと、元も子もありませんので、しっかり調査・分析したいですね。
男性なのか、女性なのか。世代、住まい、家族構成、趣味、行動パターン、暮らし方、価値観…、より鮮明に、具体的に、たった一人の「最も愛顧してくれる顧客」を思い浮かべるくらいに研ぎ澄ませます。
このお客様モデルを「ペルソナ」と言いますが、その「ペルソナ」にとっての「Pain(痛み=困りごと)」を解決し、手に入れたいと思っている「Gain(得るもの=喜び)」を提供することを目指します。先ほどのケーキでいえば、「ケーキは食べたいけど、体に悪い(Pain)。でも、体にも優しい美味しいケーキがあったら嬉しい(Gain)」という中高年女性の健康意識に応えて、「体に優しい」という価値を提供しているわけですね。
「絞る」ことは、ターゲット以外のお客様を「捨てる」ことではない
とはいえ、「絞る」ことは、ターゲット以外のお客様を「捨てる」ことではありません。「絞ったターゲット層を中心にビジネスをする」、つまり、「優先順位」を明確にするという意味です。ターゲット層を中心に円が外に広がっていく「水の輪」のようなイメージでしょうか。
実は、起業するときに絞ったターゲットではない方々に愛顧されるという場合もあります。先ほどのケーキでいえば、「健康を意識する中高年の女性」をターゲットと考えて開業したのに、「子どもの健康を気遣うママさん」のご来店が多く、「子どものお誕生パーティーに対応できますか?」というような問い合わせが多く、慌てて「お子様のプレイエリア付きのイートイン・スペースを増設」…なんてこともあります。
「絞る」上で気を付けたいポイント
だからこそ、「絞る」一方で、ターゲット外の人に居心地悪く感じさせないように配慮することも重要です(ムズ~、汗)。
女性向けの和菓子店が、お持ち帰りの手提げ袋の色を「ミント・グリーン」(「ピンク」を避けた)にしたことで、思いのほか男性客の利用が増えたそうです。男性にも持ち歩きやすく、女性へのプレゼント利用はもちろん、女性が多い会社への贈答品利用も増えたそうです。
なお、「絞る」際に、想定顧客(やその周辺)に十分な数量があって、ビジネスを継続できるかどうかについては、しっかりと調べるようにしましょうね。
あなたのビジネスの成功をお祈りしています!
中小企業診断士。大卒後、東京・ロンドンで編集者として活動後、メガバンクにて為替取引に従事。帰国後に㈱きのくに未来ビジネスセンターを承継し、県内初の創業スクール(中企庁事業)を受託する等、創業や中小企業経営の支援継続中。