CASE STUDY 事例紹介

地域とともに歩み、 和歌山県の産業の発展を牽引する存在を目指して

株式会社伊藤農園

有田市に拠点を置く株式会社伊藤農園(以下、伊藤農園)は、有田みかんをはじめとする柑橘類を使ったジュース等の加工品を国内外に発信する企業です。その起源は明治時代のみかんの卸問屋にまでさかのぼり、時代とともに事業形態を進化させてきました。柑橘類の生産から加工、販売までを一貫して手掛ける6次産業化の先駆者としても知られています。

2023年、代表取締役社長に就任した伊藤彰浩氏は、これまでの実績を基盤に新たな事業ステージに挑戦中。同氏が描く未来のビジョンと、同社の歩みを紐解きます。

アップデートイメージ

「知る」のアップデート

ブランディングと商談会への継続出展で売上UP

おススメイメージ

こんな人にオススメ!

自社商品を全国・海外でも売っていきたい方、組織力を向上したい方

家業継承――伝統を革新へとつなぐ挑戦

伊藤氏はかつて東京の酒類の専門商社で営業経験を積んでいましたが、父親の体調不良をきっかけに家業への思いを強め、2006年に伊藤農園へ入社しました。

「伊藤農園のジュースは、紀州の自然が育んだ果実そのものの美味しさを届ける商品です。東京で販売したり贈答品として渡した際には非常に喜ばれました。一方で、全国的な知名度がなく、売上も伸び悩んでいました。この素晴らしい商品をもっと世に広めたいという想いで、入社当初はがむしゃらに営業に取り組みました」と伊藤氏は振り返ります。

その後、独自の製法を核として、品質と美味しさを強みにしたブランディング戦略を推進。この取組が奏功し、百貨店や大手コンビニチェーンでギフト商品として採用されたほか、EC通販や海外市場にも販路を拡大。入社後18年で、売上は20倍の20億円に達しました。

「みかんしぼり」果実を半分に切り、おわん型の機械で上から優しく押し搾る独自の方式で作られた果汁100%ジュース

「みかんしぼり」果実を半分に切り、おわん型の機械で上から優しく押し搾る独自の方式で作られた果汁100%ジュース

世界市場への挑戦――和歌山から世界へ

伊藤農園の製品は現在、32か国に輸出されています。その端緒となったのは、公益財団法人わかやま産業振興財団主催の「わかやま産品商談会in和歌山」でした。

「バイヤーを通じてフランスの老舗レストランに採用されたことが、EU諸国への販路拡大につながりました」と伊藤氏。さらには商談会の成功事例を積極的にアピールし、新たな市場を次々と開拓しています。

「海外展開にはコストがかかりますが、参加することで得られる成果は計り知れません。当たり前のことを当たり前にやる――これを徹底することが大事だと思います」と語る伊藤氏の言葉に、堅実な経営哲学が垣間見えます。

SIAL 2012(パリ国際食品見本市)に出展中、PALMIFRANCEのオリヴィエ氏とブースでの一枚。この展示会出展を機に、EU各国への輸出が一気に加速した。現在でもゆず果汁をはじめとした商品の輸出を継続していただいている。

SIAL 2012(パリ国際食品見本市)に出展中、PALMIFRANCEのオリヴィエ氏とブースでの一枚。この展示会出展を機に、EU各国への輸出が一気に加速。現在でもゆず果汁をはじめとした商品の輸出が続いている。

海外商談会への出展

2024年FHC上海环球食品展に出展中の1枚。みかんジュースをはじめとし、柚子商品が人気を集めました。

離職率の壁を越えて――強い組織作り

売上10億円を突破した頃、同社は高い離職率という課題に直面しました。

「従業員の半数が入れ替わるような状況で、このままでは事業拡大どころか生き残れないと強い危機感を抱きました」

伊藤氏の入社当時は正社員ゼロ、理念もないまま個人事業主の状態でした。その延長線上で運営していたことが、急激な環境の変化で支障をきたしたのです。

これを打破するため、伊藤氏は従業員とともに理念とクレド(行動指針)を策定。研修やフィードバックを通じて浸透を図り、組織力の強化に努めました。

その結果、離職率は大幅に改善し、現在では農業大学や農学系学部の若者から新卒入社先として支持される人気企業に成長しています。

「『なぜ私たちは働くのか』を明確にすることで、従業員全員のベクトルが揃いました」と伊藤氏は笑顔を見せます。

従業員全員に配布しているクレドノート

従業員全員に配布しているクレドノート

手帳を開くと、クレド(行動指針)が具体的に記載されています。

手帳を開くと、クレドが詳細に記されている

地域と未来をつなぐ――農業複合施設の構想

インタビューに応じる伊藤社長。大切にしている心得は「当たり前のことを当たり前にやる」

インタビューに応じる伊藤氏。心得は「当たり前のことを当たり前にやる」

伊藤農園の未来を見据えたビジョンの一つが、地域と連携した「伊藤農園ヴィレッジ」の開業計画です。地域産品を活用したカフェや加工体験施設を設け、観光資源として地域の魅力を発信するテーマパークを目指します。

「ジュースを作って売るだけでなく、地域に人を呼び込む企業になりたい。道のりは長いですが、ライフワークとして取り組んでいけたら」と意気込みを語る伊藤氏。2024年にオープンしたカフェ「みかんの木」も、この構想の一端を担っています。

みかんの木

本社の横に併設されたカフェ「みかんの木」

みかんの木、和歌山産の柑橘をふんだんに使ったメニューを楽しめる

「みかんの木」では、和歌山産の柑橘をふんだんに使ったメニューを楽しめる。写真はランチメニューと果汁100%ジュースの飲み比べ3種

イノベーション宣言——地域とともに歩み、産業の発展を牽引する存在へ

「私たちは、耕作放棄地や規格外品を積極的に活用することで、地域農業の活性化に取り組んできました。今後も地域資源を最大限に活用し、和歌山県の産業を牽引する存在となることが私たちのイノベーションです」

地域と共に歩む姿勢、従業員とともに築く組織力、そして未来に向けた挑戦――これらが伊藤農園の成長の原動力です。伊藤農園はこれからも地域の発展に貢献しながら、世界へとその価値を発信し続けることでしょう。

インタビューに応じる伊藤社長。大切にしている心得は「当たり前のことを当たり前にやる」

伊藤 彰浩 氏 プロフィール

1980年  有田市生まれ
2004年  株式会社河内屋  入社
2006年  伊藤農園  入社

2009年  法人化。株式会社伊藤農園 専務取締役 就任
2015年  経済ドキュメンタリー「ガイアの夜明け」に出演
2016年  伊藤農園直営ショップ「みかんの木」をオープン
2023年  「Forbes JAPAN SMALL GIANTS AWARD 2023-2024」ニッポンが誇る「小さな大企業」として「LOCAL HERO(ローカルヒーロー)賞」を受賞
2023年  株式会社伊藤農園 代表取締役社長就任

会社名 株式会社伊藤農園
所在地 〒649-0435
和歌山県有田市宮原町滝川原498-2
創業 1897年
TEL 0737-88-7053
URL https://ito-noen.co.jp/
業種

主業:清涼飲料製造業
従業:生菓子製造業

同社が活用した「わかやま産品商談会in和歌山」の詳細はこちら
※この記事は、2025年3月26日発行「わかやま産業通信19号」に掲載した内容を転載し、web用に改修したものです。

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