紀伊半島大水害で被災
奥川さんは和歌山県の那智勝浦町出身。高校生のときに紀伊半島大水害(2011年)で被災し、身近な人を亡くしたことから、「地元に貢献したい」「土砂災害で亡くなる人をなくしたい」と強く想うようになったそうだ。
その後、手探りで情報収集をする中で、水害と山林が深い関係にあることを知り、自然災害のリスクを減らす「防災」こそが自分が地元に貢献できることではないかと考え、「山づくりで土砂災害のリスクを減らす」構想を練り始めた。
林業の世界へ
奥川さんは林業の情報収集のため、全国の林業家を訪ねた。すると、日本の林業にさまざまな課題があることがわかったという。
たとえば、国産の木材の需要が、外国産の安い木材の輸入により減ってしまい、伐採後も植林されずに放置されている山が増えていること。また、その「皆伐地(かいばつち)」が災害時の土砂災害のリスクを高めていること。そして、若手林業家が自力で収益化を図るためのノウハウや知識を得る機会が不足していることなどだ。
さらには、林業の情報自体があまり世に出回っておらず、その詳細や現状を把握するのに、自身が二年の歳月を費やしたことから、「林業の情報をわかりやすく社会に発信し、世間の森林保全に対する関心を高めること、社会の問題を自分事化してもらうことが大切だと感じた」と話す。
大学卒業後は、森林保全のビジネスプランを事業化するため、ソーシャルビジネスを行う企業に就職した。しかし、仕事自体は充実していたが、「林業の現場からは距離ができてしまった」と感じた奥川さんは、地元の林業家と交流の中で、地元の林業界に身を置いてこそ、コアな情報を発信していけると、Uターンを決断。2021年に田辺市へ移住し、新たな一歩を踏み出した。
メンバーが『戻り苗』を考案
なお、奥川さんは同社の立ち上げ前に、東京の学びの場で活動した時期があり、その際に同社を立ち上げたメンバー達(今では社員だが、奥川さんはメンバーと呼んでいる)と出会っている。実は『戻り苗』のアイデアもその中のメンバーが考案したものだというから驚きだ。
今はそのメンバー達と共に「土砂災害で亡くなる人をゼロにする」をビジョンに掲げ、昨年発売した個人向け『戻り苗』に続き、新たに発表した企業向け『戻り苗』の受注を伸ばすために生産体制を整えている。
企業向け『戻り苗』の発売により、大口の受注の増加を見込む他、環境負荷の高い企業に対する環境保全の取組の指導や社員への植林体験などをパッケージ化することで、事業の拡大を目指す。
財団のフル活用で次のステップへ
同社は昨年、財団の「わかやま地域課題解決型起業支援事業」を、今年は「わかやま中小企業元気ファンド事業」「国内展示会集団出展事業」を活用し、目覚ましいスピードで、ビジョンの実現に向けてステップアップしている。
奥川さんは「専門家がいる環境に入ることで、自らをやらざるを得ない状況に追い込んでいる。財団は補助金だけではなくその後のサポートも手厚い。新たなチャレンジの場をもらえることに感謝している」と語った。
起業をめざす人へ
奥川さんに起業をめざす人へのメッセージを伺った。
「とりあえずやってみてください。アイデアもお金関係のことも、やってみるからこそ洗練される。動くからこそ課題やニーズに気づく。遅いスピードでもいいので、とりあえず一歩踏み出してみてください」と話してくれた。
一歩踏み出すことで、共感してくれる人や信頼できる仲間と出会うことができ、その求心力はますます高まっていく。
奥川 季花 氏 プロフィール
1995年那智勝浦町出身。2018年同志社大学を卒業後、福岡県の株式会社ボーダレス・ジャパン起業家採用。2019年田辺市の株式会社中川の広報業務を手伝いながらソマノベースを個人事業として立ち上げる。2021年田辺市に移住、株式会社中川に入社。会社員をしながら2021年に株式会社ソマノベースを設立。
会社名 | 株式会社ソマノベース |
---|---|
所在地 | 〒646-0033 和歌山県田辺市新屋敷町80-6東海ビル 2階 |
創業 | 2021年 |
info@somanobase.com | |
URL | https://somanobase.com/ |
業種 | 山林活用支援事業、木材製品プロデュース事業、木育事業等 |
従業員数 | 5名 |
同社が活用した「わかやま地域課題解決型起業支援事業」の詳細はこちら
※この記事は、2022年8月31日発行「わかやま産業通信14号」に掲載した内容を転載し、web用に改修したものです。
「知る」のアップデートは一記事から。みなさんのビジネスを成長させる『知恵』を随時お届けします!