CASE STUDY 事例紹介

紀州材の木製ガードレール『木景(こかげ)』で地域に彩りと潤いを

株式会社クスベ産業

和歌山県は脱炭素社会の実現に向けて、公共土木工事における紀州材(県内の森林から産出され、県内で加工された木材)の利用を推進しています。その取組のひとつに、高野山や白浜町などの主要観光地の幹線道路のガードレールの木造化があります。これに株式会社クスベ産業が開発した関西初となる木製ガードレール『木景』が採用されています。

『木景』は、紀州材を使用し、接続金物で上下2本の木製ビーム※1を一体化して強度を高めた構造物です。2018年と2022年に一般財団法人土木研究センターの車両用防護柵性能評価衝突試験(大型トラック・乗用車をガードレールに衝突させるもの)に合格※2することで安全性を証明しました。

また、意匠性の高い八角材を使用した優美なデザインは、カーブや勾配に対応しながら、地域の景観をやさしく彩ります。

※1 建設や建築において用いられる構造要素の一つで、一般的に水平または傾斜して配置され、重さを支え、その荷重を柱や壁などの垂直の構造要素に伝達する役割をするものをいいます。『木景』では、上下の木製ビームを枠状に一体化することで衝撃をビームに集中させずに支柱に伝える構造となっています。

※2 2018年にC種に合格の後、2022年に同社代表取締役の楠部勝已氏が代表を務める株式会社関西ガードにて「わかやま中小企業元気ファンド」を活用して強度を高め、B種に合格

アップデートイメージ

「知る」のアップデート

地域資源の活用で、地域の新たな価値と雇用を創造する

おススメイメージ

こんな人にオススメ!

新商品開発したい方、サステナブルなものづくりに取り組みたい方

地域資源活用で地域経済活性化・雇用創出へ

1992年に創業した同社は、ウッド筋工(すじこう)や間伐材二重井桁枠工などの『木材利用工法』を開発し、その普及に力を注いでいます。

ウッド筋工を施した法面を写した写真。

ウッド筋工(鉄筋挿入型)

間伐材二重井桁枠工

同社の代表取締役の楠部勝巳氏によると、『木材利用工法』とは、土木工事に地域の木材を使い、地域経済の活性化や雇用創出を図るとともに、森林整備を促すものだといいます。

たとえばウッド筋工は、崩壊斜面や切土斜面に、地域で活用されていなかった間伐材を階段状に設置して植生環境を改善し、また、広葉樹の直根苗を地中深くに植えることで、斜面の自然復元化や安定性を向上させ、災害対策にも効果を発揮します。

木材利用工法のイメージイラスト。斜面に対し、丸太を階段状に設置して表土の安定を図ることで、雨水の流れができたり、飛んできた種子の取り込みが起こり、さらに植物が根を貼ることで、風などで飛んできた種子が取り込まれ、自然復元をするという流れができ、やがて全面が自然復元化する。

『ウッド筋工』のイメージ図

楠部氏は「木材利用工法は地域資源である木材を使い、地元業者に施行を委託することで、地元を潤わせることができます」と話します。

一般的な土木工事には主にコンクリートや鋼材が使用されますが、その場合の原料は和歌山県外で製造されて持ち込まれるため、地元には還元されにくいという課題がありました。

そこで同社は、地元の林業・木材産業に還元できる工法を考え出し、それを全国に普及し、同じような課題を抱える全国の林業・木材産業の活性化に貢献したいと考えています。

皮むき機

製材機

木材乾燥機

削り加工機

地元業者が加工を行う

ウッド筋工製作

「木材利用工法」でカーボンニュートラル

楠部氏は『木材利用工法』は、カーボンニュートラル実現の有効策としても期待できると話します。

「木材は、長期間に渡って炭素の貯蔵が可能であったり、製造時のエネルギー消費が少ないことが特徴です。既存の鋼製ガードレールを『木景』に置き換えれば、GHG(温室効果ガス)排出量を100m当たり1.63トン削減(製造時)し、またウッド筋工においては、従来工法と比較して、CO2排出量を1000㎡あたり、およそ52.9トン削減(製造~施工時)できます」

製造時における比較

しかし、このように有効性が高いと考えられる『木材利用工法』にも、課題が累積しています。

「安価なコンクリートや鋼材などの原材料に比べ、高価な国内産の木材を使う『木材利用工法』は、まだまだ公共事業での工事における採用実績が多くありません。だからこそ、当社は『木材利用工法』を全国に広めて、原木の安定供給や国産の木材需要の拡大にも働きかけなければなりません」

このような想いで、楠部氏は2018年に『木製構造物研究会』を立ち上げました。その方針に賛同した企業が全国から参画し、技術の共有を行っています。

木製構造物研究会の目的

■木製構造物の技術の向上と普及を図る。
■自然景観の保全および環境に配慮した土木技術の発展に寄与する。
■地域振興の推進に寄与する。

引用元:木製構造研究会公式HP

建設技術展2022近畿「審査委員特別賞」を受賞

現在『木景』は、県発注の国道・県道などに累計7000m(※2024年7月現在、9000m設置)設置され、2022年には初めて国交省発注工事(北山村付近)にも採択されました。

また、大手建設メーカーが参加する「建設技術展2022近畿」では、審査委員特別賞を受賞。機能性、デザイン性だけでなく、同社のサステナブルなものづくりへの姿勢が高く評価されています。

 

県内、そして全国に広がりを見せる株式会社クスベ産業の取組。その想いはどこまでも続くガードレールのように、未来へと続いています。

国道480号 高野山大門前(2023年6月撮影)

会社名 株式会社クスベ産業
所在地 〒643-0166
和歌山県有田郡有田川町吉原429
設立 1992年
TEL 0737-32-4877
URL https://www.kusube.co.jp/
業種 緑化・土木工事業 環境製品販売

記事でご紹介した「わかやま中小企業元気ファンド」の詳細はこちら
※この記事は、2023年3月17日発行「わかやま産業通信第15号」に掲載した内容を転載し、web用に改修したものです。

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