運輸業の「ものづくり」
「エムネジ」の開発当時、運輸業が主体の同社では「ものづくり」への理解度が薄かったといいます。そのような中、技術室長の南出好宣氏は、社内で自社ブランドのものづくりの重要性を示し、2008年にメンバー12名での開発プロジェクトをスタートさせました。
現場の課題解決に向けて
運輸業の現場では、しばしば梱包に用いる強化段ボールの角を固定する作業が発生します。
その作業は専用の機械を用いて行うか、テープで固定することが一般的ですが、機械を用いる場合、まずその機械を設置するためのスペースが必要であったり、持ち運びがしづらかったりし、またテープの場合は、紙の反発が原因で、テープ剥がれが起きやすいという課題がありました。
南出氏らは、これらの課題を解決する全く新しい固定具をつくることはできないかと考えたのです。
試作のたびに生まれる課題
新たな固定方法を探る中で、南出氏らは段ボールを「ネジで留める」という着想を得ました。
まず、金属製ネジの試作を作りました。しかし、この時点では梱包材を固定した後の強度が、期待するレベルに到達できなかったといいます。
その後、ネジの強度を補完するために、ネジの先端の形状を変更しながら何度も試作を繰り返しました。しかし、形状が複雑になると今度はコストの課題が生まれ、金属製での製造が困難になりました。
「ものづくりの難しさを感じました」と南出氏は話します。
その後、コスト面で優れる樹脂を原料とした開発に切り替え、その他の仕様についても、使用後の分別処理を見込み、逆回転で容易にネジ本体を外せるものへと改良を重ねます。
そして2010年、ついに現在の形状の「エムネジ」が完成し、同年10月に販売を開始しました。
画期的な梱包資材の誕生
この「エムネジ」の誕生で、誰もが簡単かつ確実に、市販の電動ドライバーで強化ダンボールを固定できるようになりました。
エムネジ導入による固定作業の簡易化、効率化は、作業員の負荷を大きく軽減します。
また、場所の制限なく、現場で容易に固定作業ができることから、段ボールをあらかじめ組み立てておく必要もなくなります。段ボールを平シートの状態で輸送し、輸送コストや保管スペースを削減しながら、輸送回数の減少による使用燃料の低減、ひいてはCO2の削減にも効果が期待できるといいます。
そして、「人にも環境にも優しい」といえるエムネジは、公益財団法人わかやま産業振興財団の「わかやま中小企業元気ファンド」の活用でさらにラインナップを増やし、今では年間約200万個の販売実績を誇る製品に成長しています。
バイオマス素材配合へ
同社のビジョンの一つに自然環境への配慮が挙げられています。
近年の温室効果ガスの排出や海洋ゴミなど、石油由来のプラスチック使用に係る環境負荷が問題視されていることを受け、自社製品の樹脂使用量を削減し、土壌および海洋におけるプラスチックゴミの発生防止に取り組むとしています。
そして、現在開発中の「バイオマス素材配合のエムネジ」が、まさにその取組にあたります。
バイオマスはセルロース(※1)を原料とし、県内で成形加工、販売の一貫生産を実施。南出氏は、これらの取組を通じて、県内における持続可能な産業の創出に貢献していきたいと話します。
※1 セルロースは紙・パルプ・衣料用繊維等、広く利用され、様々な形で活用されています。
財団事業で販路拡大に成功
「当社がわかやま産業振興財団様の事業を活用し始めたのは、2019年頃からです。試作・研究に対する補助金である『わかやま中小企業元気ファンド』でエムネジのラインナップを増やすことに成功し、『国内個別出展支援事業費補助金』にて「関西物流展2021」に出展しました。また『エムネジ』の販売において面談希望企業との個別商談の機会を提供する『マッチング準備支援コース(令和5年度終了)』を利用し、エムネジを必要とする企業様と引き合わせていただきました。わかやま産業振興財団様にはいつも的確な助言をいただき、感謝しています(南出氏)」
人にやさしく、環境にやさしく。運輸業ならではの「ものづくり」で生まれた「エムネジ」は、同社のサステナビリティを象徴しています。
会社名 | 浅川組運輸株式会社 |
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所在地 | 〒640-8287 和歌山市築港5-4 |
創業 | 1922年 |
設立 | 1963年 |
TEL | 073-432-7371 |
URL | https://www.asakawa-unyu.co.jp/ |
業種 | 総合物流サービス |
従業員数 | 223名(2024年7月現在) |
記事でご紹介した「わかやま中小企業元気ファンド」の詳細はこちら
「国内個別出展支援事業費補助金」の詳細はこちら
※この記事は、2023年3月17日発行「わかやま産業通信第15号」に掲載した内容を転載し、web用に改修したものです。
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