伝統産業が抱える課題を前に新たな売り方を模索
日本の数ある伝統産業が市場縮小という難局に直面しているように、漆器製造業もまた厳しい状況下に置かれています。
「食洗器で洗えない漆器を避け、洋風の食器を好む人が増えました。コロナ禍の影響で廃業する卸業者も出てきて、従前の売り方だけでは通用しないことを痛感しています」と話すのは代表取締役の山家優一氏です。
そこで、同社はネット販売に活路を見出しました。2016年に始めた海外向けのネット販売では、定期的に大口の注文をする顧客を掴んでいます。
「反応があった国で注文があった商品なら、最低限その国での需要はあるかと考えています。これまでアプローチしていなかった海外の売上がゼロからイチになり、今後×100、×1,000にできる可能性があるなら、そこにアプローチすることは面白いんじゃないかという感覚を持っています」
既存商品でウケるものを探す「ミニマムスタート」
山家氏は海外展開への大きなハードルは感じていないと言います。
「緻密に戦略を練って一気に進めるのは自社には合わないので、できるだけお金をかけずに、ネット販売を軸に進めて、海外からの反応に注目しました」
都度、その売れ方をヒントに、国ごとに分析しているそうです。
展示会で入念なリサーチを
また同社は、財団の事業を上手く活用しています。昨年度はタイで行われた展示会『スタイルバンコク(インテリア雑貨、家庭用品、衣料などの国際総合見本市、東南アジアでは最大級)』に出展し、県が派遣した通訳に来場者の率直な感想を聞き出してもらいながら、自身はバイヤーに『ABテスト(2つのパターンを比較しどちらが良いかを決めるテスト手法)』で情報収集を行いました。
「この商品を売ろうではなく、既存商品を色々持参してウケるものを探すと、自社の強みが見えてきます」
そして、この展示会で一番「ウケた」ものが曲げわっぱ(木のお弁当箱)でした。シンプルで、他にない「日本らしさ」を感じさせる器は、海外展示会でも大人気です。
この展示会で知り合った人物の紹介で有名ホテルのレストランに採用されると、横展開で次々と他のレストランにも採用が決まりました。
「和食文化が世界に広がり、高級路線の和食店が増えています。そういったお店で、『日本食にはこういう器が合うよね』と言ってもらえたら嬉しいですね」と山家氏は話します。
大きく挑戦して撤退するよりも、長く海外に居続けること
「力を入れて大きく挑戦することも大事ですが、失敗するとその反動も大きい。僕は大きな挑戦よりも、小さくても長く海外に居続けることが大事だと思います。『山家漆器店』だけでなく、この黒江一帯の伝統の紀州漆器が、世界のあらゆる国に当たり前に存在するように広めていきたいと思います(山家氏)」
小さく、しかし確実に海外のお客さまのニーズに応えていく。自社に合ったアプローチを的確に実行し、伝統ある紀州漆器を世界へ。今は小さな芽も、やがて大きな大木に育つはずです。
山家 優一 氏 プロフィール
1987年 和歌山県海南市生まれ
大学卒業後、大阪の資材会社に就職
2013年 電設会社への転職を機にミャンマーヤンゴンに駐在
2016年 3年間の駐在期間を経て、家業である山家漆器店へ
2023年 株式会社山家漆器店の法人化、代表取締役社長に就任
会社名 | 株式会社山家漆器店 |
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所在地 | 〒642-0012 和歌山県海南市岡田223 |
創業 | 1950年 |
TEL | 073-482-2177 |
URL | https://www.prinmail.com/ |
業種 | 漆器・紀州漆器製品・漆器雑貨 |
同社が参加したタイ・スタイルバンコク2024のレポートはこちら
インタビュー動画:「海外へ販路を持つために」を公開中です!
※この記事は、2024年8月27日発行「わかやま産業通信18号」に掲載した内容を転載し、web用に改修したものです。
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