CASE STUDY 事例紹介

世界初・CFRTP溶接の量産技術確立へ、プラスチック加工会社の戦略

川本化成株式会社

川本化成株式会社代表取締役

川本化成株式会社(和歌山県和歌山市)は、プラスチックの切削、組立、溶接(金属・ガラス・プラスチックなどの接合で、その部位を溶かして継ぎ合わせること)を得意とし、液晶・半導体製造用の薬液タンクをはじめとした多品種小ロットの工業製品を製造しています。

近年、同社はまだ誰も取り組んだことが無い「CFRTP(熱可塑性炭素繊維強化プラスチック、Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics の略)」の溶接接合に世界で初めて成功し、2021年に特許を取得しました。CFRTPは、鉄と比べて重さが約4分の1と非常に軽量でありながら、強度は10倍と剛性にも富む先端素材です。そのため、航空機や自動車の構造部材などへの採用が進んでいます。

今回、同社代表取締役の川本淳生氏に開発の経緯を伺いました。

川本化成株式会社

 

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展示会で自社の「魅力」を研究し、「強み」を磨く

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技術開発したい方、ブランディングにお悩みの方

万年筆づくりからプラスチック加工へ

――まず、会社の沿革を教えていただけますか?

当社は祖父が兄弟で万年筆を作る会社を興したことから始まっています。万年筆の本体に使うプラスチックを削ったり、曲げたり、ねじを切ったりしていて、そのうち仕入れ先のプラスチックメーカーから樹脂板材と溶接棒(溶接の時に母材とともに溶融し、接合を助ける棒)の存在を教えてもらい、大型の溶接加工品の製造を始めました。以来、当社はこのプラスチックの加工技術を軸として、時代の変遷と共に多様化するプラスチック製品の需要に応えてきました。

 

――たとえば、どのような需要があったのでしょうか。

大きなところでは、まず80年代のフィルムカメラの普及による現像液用タンクの製造、次に90年代の液晶テレビやPCの普及による半導体処理装置のための薬液タンク製造の需要がありました。プラスチックはその耐薬品性の高さから、金属の代替として、また新製品の製造へと、あらゆる用途に用いられてきた歴史があります。いずれもエレクトロニクスの発展と共にプラスチック製品の大規模な需要が生まれたということですね。

プラスチック溶接を行っている写真。作業者は左手に持った溶接棒の先を接合箇所にあて、接合箇所に右手の機器で熱風をあてることで、溶接をしていく。

プラスチックの溶接は、接合箇所に専用の溶接棒を押し当てながら、熱風を当てて棒と母材を溶かすことで行う。

『プラスチック溶接』の魅力

――御社は『プラスチック溶接』を得意とされていますが、その一番の魅力を教えてください。

『プラスチック溶接』の一番の魅力は、これまでの接合方法ではできなかった形状や製品を実現できることです。たとえば接着だと、面積の少ない断面同士の接合は強度不足に陥りやすいのですが、『溶接』であれば高い強度を保持します。また、円形や流線形などの複雑な形状にも対応可能です。

オーダーメードの製造品の一例。複雑な形状もお手の物。

オーダーメードの製造品の一例。複雑な形状を得意とする。

大型製品の組立を行っている写真。写真左の男性職人が、長さを確認し、左の男性職人が印をつけるために待機している。

大型製品の組立にはコミュニケーションとチームワークが何よりも大切だという。

「先端素材の溶接、ないならやってみよう」

――なぜ、CFRTPの溶接技術開発に挑戦したのですか。

ありがたいことに今は半導体装置の需要がありますが、それもいつまで続くかわかりません。未来を見据えたときに、ここ10年で登場した先端素材であるCFRTPに注目しました。聞けば、その接合方法は板を重ね合わせてボルトやナットなどで留める機械的締結が主流で、『溶接』はないのだとか。溶接に必要な素材や配合方法は大体想像できたので、『ないならやってみよう』と考えました。

インタビューを受ける川本社長の写真。テーブルの上に手を組み、真剣な表情をしている。

インタビューを受ける川本社長

――CFRTP材の溶接技術開発における苦労を教えてください。

溶接は両方の部材を同時に熱で溶かし、継ぎ合わせるものですが、CFRTP材の場合、構成素材であるナイロンと炭素繊維の融点に千度以上の差があるために困難を極めます。しかし、当社は独自のノウハウでCFRTP専用の溶接棒を開発し、面積の少ないCFRTP材の断面同士を平らにつなげる技術を開発しました。

特許を取得した「CFRTP溶接棒」の接写写真。濃い灰色の細長い円柱状の棒である。

CFRTP溶接棒(特許取得)

CFRTPのT字溶接を行った写真。2枚の板状CFRTP材を、側面から見るとアルファベットのTの形になるように、板の接触面を溶接している。

CFRTP突合溶接仕上げ(特許取得)。面積の少ないCFRTP材の断面同士を平らにつなぎ、材料ロスを削減

この新技術により、板を重ね合わせる必要がなくなり、コストダウンや強度・形状の自由度の向上につながります。また、CFRTPは自動車や航空機、ドローンなど、軽量化のメリットがあり、大量生産を前提とした産業での採用が進む素材ですので、現在は量産化対応のため、自動溶接ロボットの開発に取り組んでいます。

自動溶接ロボットのプロトタイプを撮影した写真。 ロボットアームの先に溶接棒が装着されている。

現在開発中の自動溶接ロボットのプロトタイプ

自動溶接の様子を写した接写写真。2枚の板をロボットに装着した溶接棒で溶接している。

自動溶接の様子

財団事業で見えた自社ブランド戦略

――財団の事業を活用した感想をお聞かせください。

当社の分岐点は2012年頃に参加した『国内展示会集団出展』でした。当時、出展費用の補助はもちろんですが、『ブランディング』の大切さに気付けたことが何より大きかったです。初めて出会ったお客様や財団の職員さんと対話する中で、自社の強みとは何か、弱みとは何か、今後何を伸ばすべきか、皆さんは当社のどこを魅力と感じてくださっているのかなど、自社ブランドの方向性を見極める非常に良い機会となりました。そのおかげで当社の今があります。

出展期間中にブースで制作したプラスチック製の大阪城1メートル四方はある大きなもの。

展示会ブースで制作した大阪城。設計から自社で行い、細かい石畳まで丁寧に再現

展示会ブースで「溶接」を実演したときの様子を映した写真。オーストラリア、シドニーにある世界遺産オペラハウスを、プラスチックのパーツと溶接で制作しているところ。

こちらも展示ブースにて。オペラハウスを制作

『プラスチック溶接』で世の中をもっと便利で暮らしやすいものに

――御社の今後の展望を教えてください。

直近では、半導体の処理装置の需要に応えながら、2026年までにCFRTPの自動溶接ロボットを実働可能なレベルまで引き上げてまいります。また長期的には、『プラスチック溶接』の存在をもっと世の中に広めていきたいです。当社の技術で、プラスチック製品の可能性は大きく拡がりました。この溶接技術が世の中に広く知られ、新製品製造の際の製法としてご採用いただければ、これまで世の中になかったものが生まれます。『プラスチック溶接』で新たなものを生み、世の中をもっと便利で暮らしやすいものにしたいと、そう考えています。

川本淳生氏のプロフィール写真。

川本淳生氏プロフィール

1978年和歌山市生まれ
大学卒業後、三菱樹脂株式会社*入社
(*現:三菱ケミカルインフラテック株式会社)

2007年4月 川本化成株式会社入社
2012年8月 専務取締役就任
2019年8月 代表取締役就任
2022年3月 和歌山県企業ソムリエ委員会激励賞受賞
2023年2月 令和4年度 和歌山県発明考案表彰受賞

会社名 川本化成株式会社
所在地 〒640-8481
和歌山県和歌山市直川160-23
創業 1964年
TEL 073-464-3901
URL

https://www.pvc-kawamoto.co.jp/

業種 樹脂製品の開発、自動化装置の開発
従業員数 76名

記事でご紹介した「国内展示会集団出展事業」の詳細はこちら

※この記事は、2024年3月26日発行「わかやま産業通信17号」に掲載した内容を転載し、web用に改修したものです。

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