万年筆づくりからプラスチック加工へ
――まず、会社の沿革を教えていただけますか?
当社は祖父が兄弟で万年筆を作る会社を興したことから始まっています。万年筆の本体に使うプラスチックを削ったり、曲げたり、ねじを切ったりしていて、そのうち仕入れ先のプラスチックメーカーから樹脂板材と溶接棒(溶接の時に母材とともに溶融し、接合を助ける棒)の存在を教えてもらい、大型の溶接加工品の製造を始めました。以来、当社はこのプラスチックの加工技術を軸として、時代の変遷と共に多様化するプラスチック製品の需要に応えてきました。
――たとえば、どのような需要があったのでしょうか。
大きなところでは、まず80年代のフィルムカメラの普及による現像液用タンクの製造、次に90年代の液晶テレビやPCの普及による半導体処理装置のための薬液タンク製造の需要がありました。プラスチックはその耐薬品性の高さから、金属の代替として、また新製品の製造へと、あらゆる用途に用いられてきた歴史があります。いずれもエレクトロニクスの発展と共にプラスチック製品の大規模な需要が生まれたということですね。
『プラスチック溶接』の魅力
――御社は『プラスチック溶接』を得意とされていますが、その一番の魅力を教えてください。
『プラスチック溶接』の一番の魅力は、これまでの接合方法ではできなかった形状や製品を実現できることです。たとえば接着だと、面積の少ない断面同士の接合は強度不足に陥りやすいのですが、『溶接』であれば高い強度を保持します。また、円形や流線形などの複雑な形状にも対応可能です。
「先端素材の溶接、ないならやってみよう」
――なぜ、CFRTPの溶接技術開発に挑戦したのですか。
ありがたいことに今は半導体装置の需要がありますが、それもいつまで続くかわかりません。未来を見据えたときに、ここ10年で登場した先端素材であるCFRTPに注目しました。聞けば、その接合方法は板を重ね合わせてボルトやナットなどで留める機械的締結が主流で、『溶接』はないのだとか。溶接に必要な素材や配合方法は大体想像できたので、『ないならやってみよう』と考えました。
――CFRTP材の溶接技術開発における苦労を教えてください。
溶接は両方の部材を同時に熱で溶かし、継ぎ合わせるものですが、CFRTP材の場合、構成素材であるナイロンと炭素繊維の融点に千度以上の差があるために困難を極めます。しかし、当社は独自のノウハウでCFRTP専用の溶接棒を開発し、面積の少ないCFRTP材の断面同士を平らにつなげる技術を開発しました。
この新技術により、板を重ね合わせる必要がなくなり、コストダウンや強度・形状の自由度の向上につながります。また、CFRTPは自動車や航空機、ドローンなど、軽量化のメリットがあり、大量生産を前提とした産業での採用が進む素材ですので、現在は量産化対応のため、自動溶接ロボットの開発に取り組んでいます。
財団事業で見えた自社ブランド戦略
――財団の事業を活用した感想をお聞かせください。
当社の分岐点は2012年頃に参加した『国内展示会集団出展』でした。当時、出展費用の補助はもちろんですが、『ブランディング』の大切さに気付けたことが何より大きかったです。初めて出会ったお客様や財団の職員さんと対話する中で、自社の強みとは何か、弱みとは何か、今後何を伸ばすべきか、皆さんは当社のどこを魅力と感じてくださっているのかなど、自社ブランドの方向性を見極める非常に良い機会となりました。そのおかげで当社の今があります。
『プラスチック溶接』で世の中をもっと便利で暮らしやすいものに
――御社の今後の展望を教えてください。
直近では、半導体の処理装置の需要に応えながら、2026年までにCFRTPの自動溶接ロボットを実働可能なレベルまで引き上げてまいります。また長期的には、『プラスチック溶接』の存在をもっと世の中に広めていきたいです。当社の技術で、プラスチック製品の可能性は大きく拡がりました。この溶接技術が世の中に広く知られ、新製品製造の際の製法としてご採用いただければ、これまで世の中になかったものが生まれます。『プラスチック溶接』で新たなものを生み、世の中をもっと便利で暮らしやすいものにしたいと、そう考えています。
川本淳生氏プロフィール
1978年和歌山市生まれ
大学卒業後、三菱樹脂株式会社*入社
(*現:三菱ケミカルインフラテック株式会社)
2007年4月 川本化成株式会社入社
2012年8月 専務取締役就任
2019年8月 代表取締役就任
2022年3月 和歌山県企業ソムリエ委員会激励賞受賞
2023年2月 令和4年度 和歌山県発明考案表彰受賞
会社名 | 川本化成株式会社 |
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所在地 | 〒640-8481 和歌山県和歌山市直川160-23 |
創業 | 1964年 |
TEL | 073-464-3901 |
URL | |
業種 | 樹脂製品の開発、自動化装置の開発 |
従業員数 | 76名 |
※この記事は、2024年3月26日発行「わかやま産業通信17号」に掲載した内容を転載し、web用に改修したものです。
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